『ここにいるよ・・・』

 目が覚めると、白い部屋にいた。
壁も床も天井も目に写るものは全て白

「眩しい…」

天井の白い蛍光灯が嫌に目に刺さる。
重い体を何とか起こし、横を見るとスザクが自分の眠るベットに頭をのせ眠っていた。

「スザク…」

フワフワの髪の感触を楽しみながら、頭を優しく撫でてやる

「ん?ルル?」

目が覚めたのか、目を擦りながら顔を上げる。
泣いたのか目が腫れていた。

「ルル!!良かった目が覚めたんだね」

ルルーシュの姿を確認すると眠気なんか何処かへいってしまった。

「あぁ…すまないな迷惑かけた」

手元の布団を握り絞める。

「迷惑だなんて思ってないよ」

思いがけない言葉にスザクの方を見る。

「僕がルルのこと迷惑だなんて思うことなんてある筈ないだろ?」
「あぁ、そうだったな」

スザクの言葉に呆れたように苦笑し

「でも、良かった…本当に…」
「すまなっ」

気が付けばスザクに抱きよせられていた。

「もう、無理なんかしないで!僕を頼ってよ!」

スザクの肩が小さく震えている
改めて自分がどれだけ彼に心配をかけたか実感した。

震えているスザクの背中に自分の手を回し力を込め

「約束する…」

ルルーシュの言葉に安心したのか、スザクは暫くしてから漸く自分を離した。


***********


「ところで…スザクここは?」
「病院だよ」


ニコニコしながらスザクは答えた。
その返答を予想はしていたが
笑顔で即答されると思っていなかった、ルルーシュは不機嫌そうに

「何故だ!俺は嫌だと…」
「大丈夫だよ、君の素性の事なら」

全て話終わらないうちに、これまた笑顔でスザクは答える。
一言ちょっと待っててと、言うと彼は部屋から出ていった。
白い部屋に一人残され、窓から見える星を見ていると

コンコン…

ドアがノックされ、返事をするより早く勝手にドアは開かれた。

「!!」

現れた人物にルルーシュは驚き目を見開く

「久しぶりだねルルーシュ」
「あ…にうえ」

そこにいたのは、かつて自分を可愛がってくれていた第二皇子シュナイゼルだった。
ふわりと懐かしい腕に包まれた

「生きていたんだね…良かった…」

状況が理解出来ていないルルーシュは腕の中で固まったまま動けないでいる。

「何で…兄上が…」

暫くしてからやっと言葉を発した
 
「彼が教えてくれたんだ」

シュナイゼルはドアの方へと視線を向ける
そこにはスザクがニコニコと微笑みながら立っていた。

「スザクが?」

シュナイゼルは静かに頷くいた。

「僕、ルルーシュを助けなきゃって走ったんだけど…街まで全然遠くて…このままじゃルルーシュは死んじゃうって思って…」

スザクはルルーシュが意識を失っている間におきていた事を話し始めた。

話を聞くと、どうやらその後焦ったスザクは自分の所属する特派の上司に助けを求めようと、勝手にルルーシュの携帯を借り連絡をしたらしい
そして、その場に偶然居合わせたシュナイゼルも一緒に駆けつけて来たと言う。

「驚いたよいきなり電話の外にも聞こえるような大声でルルーシュを助けて下さいって聞いたときは」

笑顔で話していたシュナイゼルは途中で言葉を止め、ルルーシュを離すと立ち上がる。
そして、クルリとドアの前で立ったままのスザクの方へと体を向けると

「ルルーシュを守ってくれてありがとう…スザク君」

スザクに向かって頭を下げた。

「!!殿下!?」
「!!兄上!?」

二人は当たり前の用に驚きの声をあげた。

「で…殿下!なっ何をなさって!?頭を御上げ下さい!」

あまりの事にスザクは慌てるが

「いや…本当に君には感謝しているんだ…お陰でまたこうして義弟に逢うことが叶ったんだからね」

シュナイゼルは普段自分の家臣にさえ見せているか分からない程の笑顔を見せていた。


***********


「あの…兄上…私はこれから…その…」

ルルーシュは聞きづらそうに口をひらく
するとシュナイゼルは微笑みを浮かべ、ルルーシュの両手に純白の手袋をはめたままの長い指を重ねた。

「大丈夫、安心しなさい、君のことは本国へは報告しない、勿論ナナリーのこともだ」

「え?」

驚きシュナイゼルの顔を見上げる

「大丈夫、この病院には創立以来寄付をしていてね、融通がきくから、外部にお前の事がもれる心配はないし、主治医は私の一番信頼している部下をつける」

「何で…」

気が付けば思ったことを口にしていた

「ここはお前が自分で見つけた自分の居場所なのだろ?ルルーシュは、今のままがいいのだろ?それがお前の幸せならば私はその居場所を守るよ、もうあの男の道具に何かさせやしないよ」

シュナイゼルはそう言って手に少し力を込めて優しく握った

「兄上…」

兄の顔がスザクの顔が何やら歪んで良く見えない
ルルーシュは涙を流していた。

悲しくて寂しくてそんな涙じゃない

嬉しくて温かくて愛されていると感じたから

自分はここにいて良いんだと

ありがとう…

ごめんなさい

何で

もっと早く…
 
 
********


「ルルーシュ!調子どう?」

ドアが勢い良く開かれると同時にスザクの元気な声が病室に響き渡る

「あぁ、元気だよ変わりはない」
「そう良かった~」

そう言ってスザクは、机に置かれた花瓶の花を取り換え始めた。

「なぁ…スザク…お前…軍の仕事はいいのか?」

スザクは毎日朝早くから見舞いに来ては、夜遅くまで一緒にいてくれる。

彼が少しでも傍にいてくれることは、とても嬉しいのだが、自分が彼の足手まといになるようなことがあって欲しくない

「大丈夫♪ちゃんと毎日仕事行ってるから♪」

気にしなくて良いよと笑顔を向けてくるスザク
しかし、一日中と言っていい程自分の前にいる人間が、いつ仕事をしに行っているのか不思議でならない

そんな事を考えていたら

「今ね、特別出張中なんだ♪」

だったら尚更此所に入り浸っている暇なんかないはずだ
ルルーシュは意味が解らず首を横に傾けた。

「だぁから~此所に出張中なの!今僕の任務は君の傍にいる事なんだ♪ロイドさんは君の主治医で、こうやってるけどちゃんと給料は出てるんだよ♪素敵な任務でしょ?」

聞けばシュナイゼル直々の命令らしい

「そんな滅茶苦茶な任務があるものか」

あまりにも可笑しくて思わず笑ってしまった

「え~立派な任務だよ」

ルルーシュが笑ってくれたのが嬉しくてスザクも一緒に笑ってしまった
 
「味どう?」

「あぁ美味い」

ルルーシュはスザクが見舞いに持ってきたリンゴを味わっていた

「悪いなそんなことまで」

先程からルルーシュにリンゴを剥いているスザクに申し訳なさそうに声をかける

「全然いいよ♪これくらい♪…あっそうだ!」

何かを思い出したのかスザクの手が止まった

「明日は僕久々に学校に行ってみようと思うんだ♪あれ以来行ってないし」

ルルーシュが倒れて以来スザクは学校に行ってなかった。

「あっ明日か?」
「え?うん久しぶりに皆にも会いたいし♪駄目かな?」

出来れば明日は学校に行って欲しくない

「いや…駄目というわけでは…わかった、行ってこいよ」

ルルーシュは、止める理由が見つからず、ただ頷くことしか出来なかった。

そんな事をルルーシュが考えているとは知らずスザクは

「ルルーシュ皆に伝言とかあれば伝えておくよ?」

笑顔で尋ねてくる

「…あぁ…じゃぁ…よろしく言っておいてくれ 」
「それだけ?わかったよ♪」

余程学校へ行くのが楽しみなのか嬉しそうにリンゴの皮剥きを再開し始めた。
 
 
**********
 
 
「おはよう」

次の日スザクは元気良く、教室のドアを開けた
おはようと言っても、既に4時限目だが朝に一度ルルーシュの顔を見に行ったら遅くなってしまったのだ。
自分の席に鞄を置き教室を見回す

何かがおかしい

何時もはうるさいくらいに賑わっている教室内が今日は何故か鎮まりかえっている。

「よぉ…スザク」

リヴァルが声をかけてきたが、声には元気がない

「久しぶりだね、リヴァル」
「あぁ…」

何時もは続く言葉のキャッチボールさえ一方通行だ

(
どうしたんだろう?)

スザクの頭上に?マークが浮かぶ

「ねぇ…皆何かあったの?」
「!?」

皆が驚き動きを止めた
小声でリヴァルに聞いたつもりが鎮まりかえった教室では皆に聞こえてしまったらしい
クラスメイト全ての視線がスザクに集中する。

「おっオマエ聞いてないのか?」

リヴァルが皆を代表したように聞いてくる

「え?何が?」

スザクは周りの皆の顔を見回す。
すると、斜め前の席に座っていたシャーリーが立ち上がり

「ルルが…ルルが転校したの!」

その目は泣いたのか腫れていた。

「ルルーシュが?何言って…」

皆は何を言っているんだ

「今日の朝に先生が言ったんだ」

訳がわからない…

「本国にある学校に行くんだって」

だってルルーシュは病院に

「スザク君には言っているもんだと…」
「酷いよな…黙って行っちまうなんて…俺たち友達なのに…」

何で…

だって皆によろしくって

もうスザクにリヴァル達の声は聞こえていなかった。
一瞬スザクの頭に笑顔の似合う盲目の少女の顔が浮かんだ

(そうだ!ナナリーは!?ナナリーはこの事)

バンっっ!!

「スザク!?」

スザクは勢いよく教室を飛び出した。
後ろで自分を呼ぶ声が聞こえたが返事をしている余裕などない
彼の妹はこの事を知っているのだろうか?
スザクはクラブハウスへ走った。
 
 
*******


クラブハウスに近付くと前に黒塗りの高級車が停まっているのが見えた。


「?何だ?」

気になり中を覗こうとしたが窓にはスモークがかかって中が見えず、運転席では運転手らしき男が居眠りをしていた
諦めクラブハウスの中へと入って行き、ナナリ達の生活スペースのドアを開けようとした時だった。

「御冗談はよしてください!」

ナナリーの声が聞こえてきた
それは、とても普段の彼女からは想像できないくらい怒りに震えた声だった。
スザクは思わず一度は握ったノブを離した。
すると今度は、最近よく耳にする声が聞こえてきた。

「冗談ではないよ」

(殿下?)

シュナイゼルの声がドアの向こうから聞こえ
しかも何やらナナリーと言い争っているようにも感じられる。
気になったスザクは罪悪感があったものの自然と耳をすましてしまう

「明日ルルーシュを本国へ連れ帰る!その後は私の右腕となってもらう」
「そんなことお兄様が了承するはずありません!」

スザクはドア越しに二人の会話を聞き内容に絶句した。」
シュナイゼルはルルーシュ達が、このままの生活を続けれるようにすると約束した筈だ
その彼が何故そんなことを言っているのか、あの約束は偽りだったのか頭の中が混乱する。
次の言葉が更に彼を混乱させる

「彼は快く引き受けてくれたよ、寧ろ言い出したのは彼みたいなものだ」

なんと、シュナイゼルはルルーシュ自身が望んだと言う
しかし、そんなことを言われても兄と離れたくない妹は

「なら、私も一緒に連れて行って下さい!」

必死に言葉を返す
しかし、そんな彼女を地獄へと突き落とすかの様に義兄は

「ナナリー君は、まだルルーシュの足を引っ張るつもりかい?」

冷たい言葉を吐く

「!!」

二人の会話が途切れる。

「話はこれだけだ、いい加減君も一人で生きていく事を覚えた方がいい」

漸く声が聞こえたかと思うと、声の主は部屋の出口へとスザクがいる方へと靴を鳴らし歩いてくる。
しかしスザクの足は、まるで魔法にかかってしまったかの様に動かない
そして、そのままドアは開かれた。
 
「おや…枢木…どうしてここに?」


シュナイゼルは、目の前に現れたスザクに一瞬驚いたようだったが直ぐにいつもの読めない表情に戻ってしまう

「スザクさん?…」

スザクの名前を聞きナナリーも驚いた様だったがその目からは涙が溢れていた。

「殿下今の話はどういうことですか!?」
「今の話?盗み聞きか趣味がいいな」

スザクの問いにも、シュナイゼルは表情を変えずに答えるが言葉は何処か冷たい
しかし、シュナイゼルの後ろで泣いている少女の為にもここで退くわけにもいかない

「…確かに僕は盗み聞きをしました、しかし殿下は何故ナナリーに本当の事をお話にならないんですか!?ルルーシュは」

「枢木スザク!!」

スザクの話しをシュナイゼルは声を張り上げ中断させる。

「君は少々お喋りが過ぎるな…余計な事は喋るな!これは命令だ!」

冷めた目で吐き捨てると、シュナイゼルは出ていった
スザクはナナリーとシュナイゼルを交互に見ながら

「ナナリーちょっと待ってて」

シュナイゼルを追いかけた


*******


追い付いたスザクはシュナイゼルの一歩後ろを歩きながら

「殿下御待ちください!何故あんな事を!?まさか転校の話も!?」
「あぁ私だ」

シュナイゼルはスザクの方を見向きもせずに歩きながら答える。

「何故ですか!?何故こんな…これじゃぁルルーシュは…何処にも帰って来る場所がないじゃないですか!?」

スザクは前を行く第ニ皇子の前へ周り彼を睨める
すると、シュナイゼルは目の前に立ち塞がるスザクに溜め息をつき

「来なさい…」

スザクの腕を引き車に乗せた
 
 
********

「殿下ぁお疲れ様でした~」
「ただいまロイド」

あの後二人を乗せ学園を出た車が到着したのは、なんと毎日のように通っている病院だった
シュナイゼルはスザクを病院側が、ロイドの為に用意した個室へと連れて来た。

「あれぇ?スザク君?まさか…殿下…ιι」

ロイドは主以外のもう一人の少年に気付眉を潜めた

「あぁ現行犯でつかまってしまってね」
「それは残念でしたぁ~。間が悪いと言うか運が悪いというか…よりによってスザク君ですよぉ?」

反省の色が見られない主にロイドは、呆れているようだがケラケラと笑う

「いやロイド私は、逆に彼にバレてしまって良かったと思っている…彼には知る権利がある」

シュナイゼルの言葉にロイドはスザクの方に目をやり

「はぁ…それもそうですね…おめでとうスザク君、教えて良いって~」

ロイドはズイッとスザク目の前に顔を近づけ再び離す

「??」

スザクは二人が何を言っているのがわからない

「良いかい?これから私達が話すことは口外禁止だ!」

スザクが頷くのを確認する

「じゃぁ…ロイド」

名前を呼ばれたロイドは返事をし、口を開いた。

「率直に言うとルルーシュ様は、もう永くない」
「え?」

予想外の告白にスザクは思わず聞き返してしまう

悪い冗談だ

悪い冗談はよして欲しい

しかし、いつもふざけたような態度の上司の目はいつになく真剣で、それが事実だと嫌でも確信してしまう
シュナイゼルも近くの椅子に座り黙って話しを聞いて頷いている。

「まさか…そんな…」

自分でもわかるくらい声が震える

「残念ながら事実だ」

シュナイゼルが残酷にも肯定する

「特殊な病気でね、主に皇族の方々がかかられるんだけど…」

言いにくいのかチラリと横にいる主を盗み見る。
すると、今度はシュナイゼルが


「昔から私達皇族は、この血を濃く残すために血縁者同士結婚する事があってね、稀にルルーシュみたいに病気になる者が出るんだ」
「ルルーシュ様の母君様は血縁では、なかったんだけが、その前からのもあるからね」
「何とかならないんですか!?手術とか、色々とブリタニアの技術なら」

スザクの言葉に二人は黙り込む
するとロイドが

「…なるにはなるんだ…ただ…」
「ただ、何ですか!?」

再び黙るロイドに苛立つスザクに

「あの子がそれを望んでいないんだよ」

シュナイゼルが答えを与える

「ルルーシュが?」

『ルルーシュが死を望んでいる』スザクにはそれが信じられなかった

「驚いたよ、あの子は既に自分の病気の事を調べて知っていたんだ…多分こうなることを承知で今まで…」
「内臓気管のいたるところが壊死してきていて、今ああやって笑っているのさえ辛い筈なのに…余程周りに心配をかけたくないらしいね」

ルルーシュは確かに辛そうな顔や弱音なんかを吐かなかった

「だったら尚更早く手術を!早く何とかしないとルルーシュが本当に死んでしまう!」

叫ぶように話すスザクに二人は顔を見合せ

「ルルーシュ様の手術には、彼以外の人間のパーツが必要なんだ…彼は他の人間のを使ってまでこの世界に留まりたくはないと仰っているんだ」
「だから…自分が関わった者達には自分が何処か遠くに行った事にしてくれと頼まれたんだ…皆を悲しませたくないんだろう…本当に優しい子だよ…」

吐き気がとまらない、彼の一番近くにいて何故彼の異変に気付けなかった自分に
肝心な時に役にたたない自分に

頭の中をグルグルと二人の言葉がループする
気が付けばスザクは床に力なく座り込んでた